コットンのやさしい気持ち

【開催報告】5/10 「コットンの日にSDGsを考える~企業向けセミナー~」

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2019年5月10日、聖心女子大学 聖心グローバルプラザにて「コットンの日にSDGsを考える~企業向けセミナー~」を開催しました。午前・午後両部で述べ90名が参加、発表に熱心に耳を傾ける様子から、業界におけるSDGsへの関心の高さが伺えました。

午前の部:「サステナブルなテキスタイル最新情報」

午前の部では「サステナブルなテキスタイル最新情報」と題し、本セミナー開催のために来日されたテキスタイル・エクスチェンジ(以下TE)代表ラレー・ペッパーさんの基調講演をはじめ、サステナブルなテキスタイルやSDGsを企業の中で展開している企業の皆さまにご登壇いただき、パネルトークを行いました。

※TEの概説と、毎年発行するレポート(無料)の紹介はこのページ末尾に記載。

 

基調講演「世界の繊維産業におけるSDGs達成 / サステナブル・ビジネスへの取り組み」

テキスタイル・エクスチェンジ代表 ラレー・ペッパーさんテキスタイル・エクスチェンジ代表 ラレー・ペッパーさん

(以下、講演概要)
TEは、繊維や素材を再生可能なもの・地球に貢献しなおすものへと導き、「プリファード(好ましい)・ファイバー(例:違法伐採をしない木材から作られた繊維 等)」(*)の普及を行っている。これは、現在2.5兆ドルの繊維産業がプリファード・ファイバーを採用すれば、非常に大きなインパクトとなり、SDGsへ解決をもたらすことができるためである。また最近の報告書では、世界大手のアパレル・小売企業39社が2025年までにサステナブルなコットンの調達の割合を100%に高めることを約束した。これによりコットンの持続可能な栽培を現在の19%から2025年までに50%に高めることを目指している。

また、TEでは2018年にコンサルティング会社のKPMGと協力し、繊維業界におけるSDGs達成進捗状況、実行の優先順位を示したレポートを作成(*)。レポートでは、SDGs達成のためには、企業他ステークホルダー、NGOなど、適切なパートナーとの連携の重要性に加え、プリファード・ファイバーをサプライチェーンに入れることで、ビジネスチャンスが生まれ、SDGsに貢献できることが示唆されている。

近年、トレーサビリティ、透明性が求められ、「循環経済」が重要なキーワードとなっている。プリファード・ファイバーは値段が高く、価格のパラダイムを破壊しなければならない。消費者に本質的な価値を認識してもらうには関税と価格を下げ、関連する企業にはインセンティブを与えることが必要である。

Threading the needle(*)参考:レポート「Threading the needle」(無料)

 

報告「ACE概要/日本の繊維・アパレル企業へのアンケート調査報告」

認定NPO法人ACE 事務局次長/子ども支援事業チーフ 成田由香子

ACE成田からの報告(以下、報告概要)
2019年1月~2月に繊研新聞社と共同で実施した「サステナブルな調達に関するアンケート」調査の結果分析を報告。日本の繊維・ファッション企業67社が回答した。調査により、SDGsに関連した経営・業務計画の設定を7割が行っており、CSR方針の策定については、9割近くが策定・検討との回答が得られ、回答企業のサステナビリティ意識の高さが伺えた。一方、オーガニックコットンへの取り組みについての回答からは、取り組みは各社進んでいるものの、コストアップを主因とした経営層によるコミット獲得の難しさなどが浮かんだ。サステナビリティへの取り組みについて業界内の情報交換や連携・協働の機会が求められていること等いくつかの課題がうかがえた。

※回答詳細および分析結果は、後日ウェブサイトへ掲載予定。(7月下旬予定)

 

パネルトーク 「サステナブルな繊維産業の可能性について」

*モデレーター

  • 篠健司さん[パタゴニア日本支社 ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー]
    パタゴニア:100%リサイクル原料、再生原料、植物由来原料の使用を目指すとともに、フェアトレードUSAの認証を導入。人権や児童労働問題についても対処。

*パネリスト

  • ラレー・ペッパーさん[テキスタイル・エクスチェンジ 代表]
  • 稲垣貢哉さん[テキスタイル・エクスチェンジ 理事]
  • 井上聖子さん[株式会社アシックス CSR・サステナビリティ部]
    株式会社アシックス:東京オリンピック・パラリンピックへ向けて「ASICS REBORN WEAR PROJECT」を展開するなど、SDGs12、13に注力。
  • 岩附由香[認定NPO法人ACE 代表]
    認定NPO法人ACE:インドのコットン生産地で児童労働の予防・撤廃プロジェクトを実施。プロジェクト完了後の村では、興和株式会社と連携してオーガニックコットン「P.I.C.」(Peace India Cotton)の栽培をスタート。

パネルトーク

日本企業に期待することは?

[ペッパー氏]東京オリンピック・パラリンピックは企業のCSR活動をアピールする良い機会となる。この機会をつかって良いビジネスモデルの展開を行なってほしい。

SDGsへの取り組みのプロセスは?

[井上氏]2015年パリ協定を境に開始した。現在は、リサイクルポリエステル100%切り替えることにコミットしている。自社がどの方向に向かいたいか、何にコミットしたいのか、また、ステークホルダーの声にも注目し、目標設定するようにしている。

SDGsに未着手の企業も多いが、取り組みをしない場合のリスクは何か?

[岩附氏]SDGs前文に「我々は貧困をなくす最初の世代になるかもしれないし、地球を救う最後の世代になるかもしれない」という一文がある。SDGsができた背景にある「このままでは地球がもたないかもしれない」という感覚をリアルに感じることが重要。SDGsへの取り組みにはリスクはあるかもしれないが、そのゴールはビジネスのゴールと一致させることができる。

リジェネレイティブ・アグリカルチャー(環境再生型農業)というキーワードが登場しているが、これはどのようなものか?

[ペッパー氏]有害なものをなくすのではなく、土地や水を癒やすこと、積極的、根本的に健康な土壌を作ること、エコシステム、生物多様性を実現すること。また、これには農業に留まらず、アニマルウェルフェア(動物の福祉)、ソーシャルフェアネス(労働者の公正な働き方)への配慮も含まれてきている。

持続可能な社会/農業の恩恵を享受する子ども、親子、特に母親の琴線に触れるような企業施策があれば、取り組み普及にインパクトをもたらすのでは? ※参加者より

[ペッパー氏]全くその通り。特に若い世代の母親は、何を身につけるか、子どもに何を与えるかなど考える、消費行動を変えるためのターゲットになると思う。すでにベビー服、子ども服は広がっていて、変化は起きている。

[稲垣氏]国内のオーガニックコットンの使用状況としては、女性用、子ども服、ベビー服が多い。

設定した目標に向けての進行上ボトルネックとなるのはどのような場合か? ※参加者より

[井上氏]コストなどの問題はある。ただ、大手メーカーの牽引が解消につながることがある。例えば、リサイクルポリエステルへのコミットメントを大手メーカーが出していると、サプライヤーがリサイクルポリエステルの供給に積極的に取り組むような流れが出てくる。

[ペッパー氏]素材の選択、判断などの計画に時間がかかってしまうのが課題。シーズンごとに商品を考えるのではなく、動物繊維やコットンなど素材の生産やリサイクルのサイクルを考えるような企業文化への変化、意識改革が必要。また、価格が高くなるパラダイムを変えるために、今のビジネスのモデルをもっとフレキシブルにすること。ブランド、バイヤーなどのマインドセットを変える必要もある。

[岩附氏]トヨタの環境担当者から経営者と対話を重ね、実現方法を考え、工場からのCO2排出をゼロにするという目標設定をしたという話を聞いたことがある。勇気ある目標設定をした。目標を決めてからどうやってできるかを考えたという。少々アンビシャスな目標設定をすることが重要ではないか。日本のコーポレートカルチャーからすると困難かもしれないが、海外のように先にコミットする、バックキャスティングが有用ではないか。

 

午後の部「サステナブルなテキスタイルへの挑戦」

午後からは「サステナブルなテキスタイルへの挑戦」と題し、認証制度についての講演、次いでパネルディスカッションでは、国内でオーガニックコットンを取り扱ってきた企業をお招きし、認証取得の重要性など実践的な取り組みについてお話しいただきました。

講演「サステナブルなビジネスとエシカル消費」

一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会 代表理事 山口真奈美さん

山口真奈美さんの講演

(以下、講演概要)
国際的に展開しているオーガニックコットンの認証ラベルとしては、以下の2種があげられる。

・GOTS(Global Organic Textile Standard)

・OCS(Organic Content Standard)

サステナブル&エシカル認証ラベルは数多く存在し、森林破壊を例にとってみると、FSC認証が広く使われていて、東京オリンピック・パラリンピックでも推奨されている。持続可能な社会のために、まず環境・社会的側面の把握をしなければならないが、ツールとして認証システムが有用。また、自然や環境イメージが強い企業ほど、本業でのCSR調達の実践を伴わなければ、ネガティブキャンペーンに発展するなどPRが逆効果となる可能性もある。

エシカル消費については、行政でも推進の動きが出てきている一方で、消費者はエシカルな価値観を持っていながら、実際の消費行動につながらない問題も生じている。ESG投資が加速の動きを見せる中、企業は社会課題をバリューチェーン全体でとらえることが不可欠。何を、どこで、どのように選んだらよいのか分からないという消費者に向け、認証ラベルなどを通じ、透明性が高くわかりやすい情報を提供することが求められている。

 

パネルトーク 「これからの日本のサステナブル・テキスタイル」

*モデレーター

  • 岩附由香[認定NPO法人ACE 代表]

*パネリスト

  • ラレー・ペッパーさん[テキスタイル・エクスチェンジ 代表]
  • 稲垣貢哉さん[テキスタイル・エクスチェンジ 理事]
  • 渡邊智恵子さん[株式会社アバンティ 会長]
    株式会社アバンティ:GOTSの基準作りに関わり、日本国内のオーガニックコットンの普及に尽力。現在日本全国30か所で委託生産したコットンを用い、商品製造・販売。
  • 藤澤徹さん[株式会社新藤 代表取締役社長]
    株式会社新藤:GOTS、OCS両認証を取得。消費者へ(自社製品が)オーガニックコットンであることを明示することを重視し、コスト負担を承知の上で認証を継続取得。
  • 山本敏明さん[西染工株式会社 代表取締役]
    西染工株式会社:2015年にGOTS認証を取得し、現在はOCSにシフト。繊維工場のエネルギー大量使用も問題視し、排水処理法に着目した燃料再利用なども推進。

パネルトークの様子

パネルトークは、参加者からの事前質問や、モデレーターからの投げ掛けを交えて進行しました。
(以下、パネルトーク概要)

SDGsへの貢献について

[渡邊氏]自分たちの仕事を紐解いていくと、それらは必ずSDGsのどこかに落とし込める。SDGsは難しいことではない。

認証制度を受けて自分たちの中に残ったものはあったか?

[藤澤氏]外部評価により、事業を客観的に見ることができ、レベル維持にもつながると感じている。

[ペッパー氏]認証基準は、製品のベストプラクティスを示せるもの。しかし商品のロゴに認証基準のことを表示していない、つまり人々が認証のことを知らない現実がある。そのためにもっと行政や業界と共に、認証やその商品に関する情報開示していく必要がある。また企業からニセの認証書が出されたりニセの認証製品が出回る問題も多くある。次のステップは、規制を設けるなどして、認証を通じて産業を守ることが必要。

[山本氏]認証を受ける過程において、社員教育になる部分があった。また、これまで口伝えで行うという習慣が、書類できちんと残していくというスタイルへ変わったとも大きかった。

2025年に日本の繊維業界がプリファード・コットンがマジョリティになるためには?

[渡邊氏]現状ではかなり厳しいと感じている。現在日本では工場閉鎖が顕著で、メイドインジャパンの繊維製品はシェア3%。これの生産性をより高め、利益を上げていくようにするためには、大企業がメイドインジャパンにフォーカスすることが、牽引になるのではないか。

[稲垣氏]三越伊勢丹の一部では、社員が企画を出し消費者が話し合ってものづくりをしている。西染工さんが専門の染色ではなく小売店を持ったり、「水を使わない染色」の導入のために、異業種と組んだり。小規模ながら様々な動きが各所でみられる。個別ではなく、多様なステークホルダーとの連携に力を得て、希望をもってやっていきたい。

[参加者(日本企業関係者)より]我々も、国内にある良いものを見つける目を養わないといけない。貝印さんが作ったボタンがアルマーニに採用された事例は、なぜ自分たちが見つけることができなかったのかと印象深い。

[ペッパー氏]TEの創成期を振り返ると、人が人をひっぱっていくのだと思う。自分の大切な価値観を共有できるパッションを持っている人、たいまつを掲げて先頭を走る人を探さないといけない。私は最初に有害な農薬は使わない選択をした。夢やビジョンを持たないと健康な世界は作れない。私にとって有機農法は、てんとう虫と遊びたいという孫のためであり、自分の欲望の一環だ。大企業には相応のリスクを伴うという難しさもはらんでいることは事実なので、企業の規模にとらわれず、勇気をもって実行してほしい。

旭化成ではロイカ(スパンデックス=ストレッチ繊維)でグローバル・リサイクル・スタンダード(GRS)認証を取得したが、それにより国内外での評価は変わったか? ※稲垣氏より参加者へ質問

[参加者より]海外のお客様は意識が高く、興味をもってもらえる。日本はこれからという印象。コストはかかるが、審査を受けることで我々も勉強になるというメリットを感じている。

[参加者より]GRSを取ったことでマーケティングがやりやすくなった。グローバル企業とのやりとりでは「GRSを取っている」とさえ言えば、細かい説明をしなくても信用される。欧米からは取材の引き合いもあり、売上は非常に少ないが、宣伝効果は抜群にある。また、このようなよい取り組みの発信を遠慮しがちだが、もっとアピールしていくようにしていきたい。

設備を持っていない取引業者の場合、認証を取ることが難しいと感じる。認証基準は、海外の大企業中心に考えられたような仕組みという印象。これが日本で認証が広がらない原因にもなっているのではないか。 ※参加者より

[稲垣氏]日本独自の認証についての議論も必要だと思うが、一方で日本独自のものにするとグローバルに通用しないということになる。

[渡邊氏]日本で認証を取ることは、非常に大変。ただ、これからGOTSも日本で広く取得できるシステムを構築していくことは確定している。

[参加者より]海外のお客様には「認証された商品だけを持ってきて」などと言われる。日本での認証の難しさを感じているので、議論してもらえるとありがたい。

[ペッパー氏より]認証制度の将来は大きな議論になっている。グループベースでの制度など可能かどうかなど。トレーサビリティ、透明性なども今後の大きな問題として考えている。

共催団体 テキスタイル・エクスチェンジ(Textile Exchange)について

ミッション

  • テキスタイルのバリューチェーンにおける持続可能な実践を加速させることを人々に促し、それを提供する
  • 世界の繊維産業の悪影響を最小限に抑え、プラスの効果を最大化する

ビジョン

  • 環境を保護し、元通りにし、生命を高める世界的な繊維産業を構想する

組織構成

  • チームメンバー:30名強、15か国にアンバサダーを配置
  • 農家、サプライヤー、ブランド、小売り、サポート機関等とのメンバーシップから成る
  • 会員数:34カ国、320社

毎年発行するレポートで「プリファード(好ましい)・ファイバー(例:違法伐採をしない木材から作られた繊維 等)」の情報を開示。中でも「プリファード・コットン」には、オーガニック、フェアトレードコットン、CmiA、BCIが含まれ、認証ごとにさまざまな基準が設けられていることを紹介している。
TEでもコットンの他認証基準を6つ有しており、「禁止」「廃止」といった強制力を働かせるものではなく、「よりよいものへ」と繊維業界をシフトさせるための認証基準となっている。

テキスタイルエクスチェンジ

参考

レポート「2018 ORGANIC COTTON MARKET REPORT」(無料)

レポート「2018 PREFERRED FIBIR AND MATERIALS MARKET PEPORT」(無料)

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  • カテゴリー:報告
  • 投稿日:2019.06.12