第5回児童労働撤廃世界会議が開催されました
第5回児童労働撤廃世界会議が開催されました
第5回児童労働撤廃世界会議が2022年5月15~20日まで南アフリカのダーバンで開催されました。初めてのハイブリッド形式での会議には、1,150人がダーバンの会場で参加し、ストリーミング配信が約1万5000回視聴されました。会議の最終日には、「ダーバン行動要請」が採択され、SDG 8.7に掲げられている「2025年までの児童労働撤廃」に向けて具体的な行動へのコミットメントが示されました。
児童労働に関する会議について
第5回児童労働撤廃世界会議(以下、第5回世界会議)の最終日に行われたレガシー・セッションで、会議のホスト国の代表が過去25年を次のように振り返りました。
第1回世界会議は1997年にノルウェー政府が開催し、規模は小さかったものの重要なスタートとなりました。第2回世界会議は2010年にオランダ政府が開催し、「2016年までに最悪の形態の児童労働撤廃達成に向けたロードマップ」が採択されました。第3回世界会議と第4回世界会議は、2013年にブラジル政府、2017年にアルゼンチン政府によって開催され、ラテンアメリカ・カリブ地域における児童労働撤廃に向けた南南協力が促進されました。2021年に予定されていた第5回世界会議は、新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期されてようやく開催という運びになりました。
参加者は、ILOを構成している政府、使用者、労働者の代表に加えて、国際機関、地域機構、市民社会組織などです。
第5回世界会議の背景
児童労働者数は2000年の2億4600万人から減少していましたが、2020年には初めて増加となり、世界の子どもの10人に1人、1億6000万人となりました(詳しくはこちら)。児童労働者のうち5割以上がサブサハラ・アフリカ地域に住んでいて、7割以上が農業に従事しています。コロナ禍で貧困が増えていて、きちんと対応しなければ、2022年末までに児童労働者がさらに890万人増えるという予測もあります。
一方で2020年には、最悪の形態の児童労働条約がILOのすべての加盟国によって批准されました(詳しくはこちら)。全加盟国に批准された条約は190あるILO条約のなかでこの1つだけで、各国による児童労働撤廃へのコミットメントのあらわれと考えられ、2025年までに1人でも児童労働をしている子どもが減ることが期待されます。
第5回世界会議の目標とテーマ
第5回世界会議の目標は児童労働についての認識を高めて、児童労働撤廃への進展を加速化することで、①スケールアップ:アクションを加速化、②スキル向上:解決方法を議論、③統合:世界中からの参加者が団結して児童労働撤廃のために計画強化、をめざしました。
また、7つの主要テーマが設定されていて、そのキーワードは、①人間中心のアプローチ、②農業における児童労働、③インフォーマル経済のフォーマル化とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい雇用)、④児童労働の根本的な原因への取り組み、⑤新型コロナウイルス感染症への対応、⑥アフリカ地域への経験共有、⑦SDG 8.7達成に向けたコミットメントの強化、でした。
児童労働が増加しているという厳しい現実のなかで行われた世界会議では、コロナ禍でも児童労働をなくす取り組みを加速化していくために、課題、政策、アプローチ、各ステークホルダーの責任などについて具体的な議論が行われました。
「初めて」がたくさんの第5回世界会議
- 初めてアフリカ大陸で
- 初めて途上国がホストとなって
- 初めてハイブリッド形式で 開催
- 初めて子どもの代表者が会議に参加、成果文書に署名
- 初めてノーベル賞受賞者のフォーラムとレガシー・フォーラムを開催
- 初めてアフリカ出身でILO事務局長となる(2022年10月)トーゴのジルベール・F・ウングボ氏が閉会式であいさつ
- 初めてACEがサイドイベントを共催(詳しくはこちら)
第5回世界会議で行われたセッション
開会式、ハイレベルパネル、閉会式などの本会議、国家元首を招いたハイレベルパネルが3つ、テーマ別セッションが12、サイドイベントが24など、全部で54のセッションに計270人のスピーカーが登壇しました。子どもの代表が各セッションにスピーカーとして登壇したり、歌やドラマなどのパフォーマンスでは子どもたちが主役でした。
54のセッションには、以下のように会議の7つのテーマに関連するものが多くありました。
①アプローチ
「権利基盤」「包括的・統合的」「子ども中心」などアプローチを取り上げたセッションが5つ
②⑥アフリカ地域と農業における児童労働
アフリカに焦点を当てたものが3つ、特定の産業を取り上げたセッションの中で農業・漁業が4つと最多
農業は、特に小さい子どもにとって児童労働の入口となっていて、貧困、インフォーマル経済、社会保障の欠如、教育環境の不備、人口増加、紛争、気候変動などアフリカが直面している課題とともに取り組んでいく必要があります。
南アフリカの大統領やマラウイの副大統領をはじめとし、画面越しにはアフリカからの参加者が多いという印象でした。アフリカのリーダーたちは、現状を重く受け止め、児童労働撤廃に向けて強いコミットメントを示していました。
③④児童労働の根本的な原因の解決と社会的保護
社会政策にかかわるセッションは6つで、「教育」が4セッション、「保健」と「社会的保護」がそれぞれ1セッションずつ
これまでは対処的な方法(学校へ行くための制服がなければ支給するなど)が主流だったのに対して、児童労働を生み出している社会構造の根本的な原因を解決しなければならないという方向へのシフトが数年前から見られます。おとなに家族を養えるだけの生活所得があれば、子どもは働かなくてすみます。また、社会保障サービスが充実していれば、所得が低くても子どもは学校へ通えます。家庭が困難な状況になった時に、社会的保護のあるなしが、児童労働という手段をとるかどうかの分かれ目になるケースが多いそうです。
新型コロナウイルス感染症が世界中にまんえんし、日本でも社会保障がないことによる人びとの脆弱性があらわになりました。貧困や不安定な収入という児童労働の重要な要因を緩和するために社会的保護が注目されています。児童手当、子育て支援、育児休業、医療、適正な賃金など、包括的な社会保護制度の必要性が強調されました。
しかし、現状は世界の子どもの4人に1人しか社会的保護を受けていません。ノーベル平和賞受賞者カイラシュ・サティヤルティさんは、「年間約7兆2000億円(530億ドル)あれば、貧しい国の子どもと妊婦に社会的保護が提供できる。それは、世界の軍事費の10日分にすぎない。子どもたちに『公正な取り分』を」とうったえました。
最も多かったセッションは、「サプライチェーン・バリューチェーン」「ビジネスの役割」「デュー・ディリジェンス」など、ビジネスに関連するもので11もありました。近年、「ビジネスと人権」への注目の高まりが反映されていると思われました。その他、「協力・協調」も4つのセッションで取り上げられていました。
ACE共催のサイドイベント(オンライン)
ACEは、児童労働撤廃世界会議で、初めてサイドイベント「児童労働撤廃のための包括的エリアベース・アプローチの促進~ガーナにおける児童労働フリーゾーンの事例より~」をガーナ政府労働雇用省とJICAと共催しました。(詳しくはこちら)
ガーナ政府労働雇用省、ACE、JICAが、ガーナで取り組んでいる児童労働フリーゾーン構築について発表し、ガーナの労働組合とスイスのサステナブル・カカオ・プラットフォームからコメントをもらいました。
成果文書「ダーバン行動要請」
最終日には、成果文書「ダーバン行動要請」が採択されました。これまでの成果文書と比べて、各ステークホルダーがとるべき行動が具体的、詳細に示されています。
「ダーバン行動要請」(日本語版・英語版)はこちら
・日本語版|「児童労働の撤廃に関するダーバン行動要請」
・英語版|Durban Call to Action on the Elimination of Child Labour
行動を強化するための6つの取り組み
①若者とおとなとに最低賃金を守った働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を実現して、最悪の形態の児童労働撤廃を最優先に児童労働を予防・撤廃するためにさまざまなステークホルダーによる取り組みを加速する。
②農業における児童労働をなくす。
③最悪の形態の児童労働、強制労働、現代奴隷、人身取引を含む児童労働の予防と撤廃、そしてデータに基づき、被害者の声を反映した政策や事業を通した被害者の保護を強化する。
④子どもの教育への権利を実現し、無償、質が高い、公平、包摂的(インクルーシブ)な義務教育と訓練を誰もが利用できるようにする。
⑤社会的保護を誰もが利用できるようにする。
⑥児童労働と強制労働をなくすための資金調達と国際協力を拡充する。
そして、これら6つの取り組みそれぞれについて、すぐに実行可能で効果的な49の方策も示されています。例えば、②農業における児童労働をなくすためには、11.貧困削減の手段として農村部の経済・社会開発への投資の増加、⑤社会的保護では、29.社会保護サービスの提供とひもづけて児童労働モニタリング制度を拡大すること、などです。
「ダーバン行動要請」を実施するにあたって、誰が何をするのかが明記されています。例えば、政府は児童労働の根本的な原因に取り組み、規模を拡大していくこと、国家行動計画を策定して施策とともにILOに提出すること。ILOは、これらの情報を蓄積する場を設けて加盟国を支援すること。市民社会組織やビジネスセクターは、政府、使用者組織、労働組合と協働していくこと、などです。
★アフリカ、社会的保護、協力・協調・連携が注目された会議
感染症や紛争など大きな課題に直面し、児童労働は忘れられがちです。そんななか、児童労働が増加しているアフリカで第5回世界会議が開催され、アフリカのリーダーをはじめとしさまざまなステークホルダーがコミットメントを高める機会となりました。児童労働の解決策としては、社会的保護の重要性が強調され、会期中には、ILO とユニセフが「児童労働撤廃における社会的保護の役割」という報告書を発表しました。また、貧困、教育、保健など多くの分野にまたがる取り組みが必要なことから、成果文書で各ステークホルダーが担う役割とステークホルダー間の連携の重要性が再認識されていたことも意義がありました。
★ACEのこれからの活動
最悪の形態の児童労働条約を批准している国には、「行動計画」を作成して取り組んでいくように求められています。「ダーバン行動要請」では、各国政府が「行動計画」作成へコミットすると書かれています。ACEと児童労働ネットワークは、署名活動を行うなどして日本政府に働きかけてきましたが、まだ実現していません。これを機会に、さらに働きかけていきます。
次の児童労働撤廃世界会議は、2025年に開催予定となっています。SDG 8.7の目標年です。厳しい状況ですが、1人でも多くの子どもが児童労働によって子ども時代を奪われることがないように、遊び・学べるように、ACEはガーナ、インド、日本で児童労働をなくすための活動や国内外での政策提言を行っていきます。
これからも、みなさんのご支援・ご協力をよろしくお願いします!
※第5回児童労働撤廃世界会議の報告は、日本ILO協議会発行のWork & Life(2022年第4号)にも掲載していただきました。
- カテゴリー:報告
- 投稿日:2022.06.30