2006年8月9日
スウェットショップに反対するアメリカの団体から学ぶ資金調達
今回は、より高い利益を追求するため、第三国で現地の労働者を低賃金・劣悪な労働条件で働かせるスウェットショップ(Sweat shop)に対し活動を行っている「グローバル・エクスチェンジ」と「スウェットショップ・ウォッチ」という2つの団体を紹介したい。
グローバル・エクスチェンジ(Global Exchange)
サンフランシスコに事務所を構えるグローバル・エクスチェンジ(Global Exchange, 以下GE)は反スゥエットショップ運動の中心的NGOのひとつである。GEはスタディツアー(この団体「リアリティー・ツアー」と呼んでいる)の実施が活動と予算の大きな部分を占め、フェアトレードとキャンペーンがその他の主な活動であり、各活動がそれぞれに関わる費用をまかなう仕組みである。
児童労働に関しては、1998年にナイキの労働搾取に対するキャンペーンを行った頃から関わりを持ち始め、2001~2002年頃はカカオ生産過程における児童労働に反対する運動やフェアトレードカカオ豆の採用率を高めるよう企業に求める運動を行ってきた。また、フェアトレードチョコレートの販売も行い、秋に新しい企画をスタートする予定である。
そんなGEの事務局長、クリステン・モラー(Christen Moller)さんに話を伺った。
おとな適正な賃金を得られるようになれば子どもは児童労働しなくてすむ
児童労働に関する考えを聞いたところ、「親が適正な生活水準を保てる賃金を払われるようになれば、子どもが働かずに済むようになるはずだ」ということだった。GEはアドボカシー団体であり、これまでも反スウェットショップ運動の一環として途上国で労働搾取に遭った元労働者を招聘するスピーカー・ツアーや、ビデオ製作などを通じて、世論喚起で頭角を現してきた。
この団体のウェブサイトからは、スウェットフリー・ツールキットという、68ページに渡る開発教育教材がダウンロードできる。スウェットショップ問題に関するQ&Aから、実際に行動を起こすためのイベントやキャンペーン実施ガイド、「スウェットショップと私」というタイトルのついたビンゴゲームに使うシートまで、幅広い内容を取り扱っており、この団体の世論喚起、マス・アドボカシーの経験の蓄積を物語っている。
スウェットショップ・ウォッチ(Sweatshop watch)
反スウェットショップ運動を政策面のアドボカシーを中心に行っているのが、スウェットショップ・ウォッチ(Sweatshop watch、以下SW)である。この団体はロサンゼルスに拠点を持ち、ネットワーク団体として政策提言、企業キャンペーン、啓発・教育の3つを柱に活動を行っている。
スゥエットショップ(Sweat shop)とは
SWによるスウェットショップの定義は、法律違反がある職場であり、また労働者が
- 生活最低賃金の欠如を含む極端な搾取
- 健康・安全性の問題や長時間労働などの悪い労働環境
- 言語また身体的虐待等の懲罰
- 申し立て、組織化、労働組合の形成の試みに対する恐れや脅迫
などにさらされている職場をいう。
この団体の理論を支えるのが上の図である。一番上に小売業者があり、その下に製造業者、契約・下請け業者、そして一番下に労働者がいる。このピラミッド構造における力と富の配分を変えようとしているのが、この団体である。
スウェットショップ問題は途上国だけでなく先進国内でも
スウェットショップ問題の多くは、途上国の労働者搾取という捉え方で日本では報じられる傾向があるが、実はこの団体の場合はアメリカ国内の問題としても捉えている。カリフォルニア州の衣料品産業は243億ドル規模であり、ロサンゼルスにおいては最大の産業である。
同州内で5千以上の工場で、10万人以上の多くは移民女性の労働者が働いているといわれている。1995年のロサンゼルス郊外エル・モンティ(El Monti)で、72人のタイ人労働者が拘束され働かされていたことが大々的に報道された。この問題に関心が高まったことがきっかけに、それまで共同で1990年代初頭から活動していたNGOがSWというネットワーク団体を設立し、以後活動を続けている。実際に事務所を訪ねてみると、あたり一面が衣料品を格安の値段で売っている卸問屋であり、事務所は元倉庫を改造した部屋であった。
この設立背景もあり、この団体が力を入れてきたのが、政策提言、とくに法律を通じたアドボカシーである。通常、労働権侵害にあたり責任を問われるのは労働者を直接雇っている工場を操業する企業であり、ナイキやウォールマートというような小売業者(ピラミッドの一番上)がスウェットショップにあたる下請工場と契約をしていたとしても、法律上の責任を問われることはなかった。
労働条件を遵守させるための法整備
しかし、AB633(Assembly Bill 633)が2000年1月1日に発効されたことで、賃金保障の責任を小売業者にまで広げることが可能となったのである。小売業者に対し労働条件を守る工場との契約を選好させる、すなわち、安いという価値観だけではなく、労働条件の遵守という価値を契約工場選択の要素として入れ込むことを可能としている。
従来の労働搾取を摘発し罰するという手法のみならず、法律遵守に付加価値を創造し、遵守を促進させるメカニズムを作っているこの法律は、企業行動に対するひとつの取り組み方を示し、企業の社会的責任(CSR)の文脈で児童労働問題を考える際にも示唆に富む例である。ちなみに、このように明確に小売業者の責任を追求する法律があるのはカリフォルニア州だけだそうだ。2005年にSWが他団体と共同で発行したこの法律の施行に関するレポートによれば、賃金保障の申し立てが4倍になり、実際に小売業者が支払いに応じた案件も出てきた。しかし、法律で求められている労働条件に関する記録管理などは守られていない場合も多く、この法律の執行を担当するべき労働基準施行局(Division of Labor Standard Enforcement、以下DLSE)の人員不足なども同レポートで指摘し、改善を求めている。またこのレポート発行後、DLSEと同じテーブルにつきこの内容について話し合い、解決策として労働監査担当者に対するトレーニングを提案し実施するなど、アドボカシーを行うだけでなく、実際の施行を助ける支援を行うなど協力的関係を築き協働していることは特筆すべき点である。その他の法律については団体としてリーダーシップを取る場合もあれば、その他の団体のイニシアティブを支援するという形も取る。
郡や市などの行政も立派なステークホルダー
郡、市などの行政単位や警察、学校や大学などにおける反スウェットショップ購買法の促進も運動の大きな一部である。インターネットで検索してみたところ、クリーンクローズコネクション(Clean Clothe Connection, CCC)に複数の市における取り組みの分析レポートが載っていたが、マサチューセッツ州、ボストン市、サンフランシスコなど西海岸、東海岸の市や政府がそのようなポリシーを持っているようである。
基本的には警察や刑務所の制服などの購入にあたって、スウェットショップで作られた製品を購入することを禁じるものであるが、このイニシアティブの施行に対して予算配分を行っているのはロサンゼルス市だけであり、この予算は第三者のモニタリング費用に当てられる。今回お話を伺ったSWのアソシエイト・ディレクターのアレハンドラ・ドメンザイン(Alejandra Domenzain)さんは、この予算配分の重要性を強調し「立法だけでなく、予算の配分を実施し、施行を実現することが重要」と語っていた。
アドボカシー団体共通の悩み「資金調達」
2つの異なるアプローチでアドボカシーを行う団体ではあるが、共通の悩みは資金調達(ファンドレイジング)である。両団体とも個人寄付と財団などからの助成金を主な資金源としているが、SWは資金不足で企業キャンペーン担当者を解雇し、現在2名で運営を行っている。これまで、双方とも政府からの資金調達は試みたことがないが、「今後、政府からの資金調達を試みるつもりはあるか」と尋ねたところ、GEは「No」、SWは「YES」であったのが対照的である。
また、企業からの資金提供については、GEは企業献金を受け、企業献金に対するポリシーはないと答えているが、SWは企業からの献金は受けず、基本的に受け付けない方針であるという。これもまた対照的な結果となった。
この2団体は双方とも自身を「アドボカシーNGO」と格付けしており、プログラム実施を行っていない。それが資金調達の難しさに結びついており、日本で感じていたことがアメリカにおいてもまったくその通りであることを実感した。
ネットワークという観点から見ると、双方ともそのアドボカシー活動の中で他団体との協働の重要性を指摘しており、今回のカリフォルニア訪問でインタビューを行った国際労働権利財団(International Labor Rights Fund, 以下ILRF)の前事務局長、ファリス・ハーヴェイ(Pharis Harvey)さんもその重要性を強調していた。ハーヴェイさんは数年前までILRFの事務局長としてカカオ生産の児童労働に対するキャンペーンなど様々な対企業キャンペーンを展開したほか、児童労働コアリション(Child Labor Coalition)を発足させ、共同代表を務めていた。
アメリカの団体から学ぶ資金調達(ファンドレイジング)
ハーヴェイさんに資金調達の難しさについて話をしていたところ、打開策のひとつとしてアドボカシー活動の中の内容物を細かく分けて資金調達をすることを学んだと答えた。例えば、アドボカシー活動には事前の調査研究が不可欠である。この調査研究の部分のみに対しての資金調達をまず行いう方法でキャンペーンやアドボカシー活動をスタートさせることを、これまでも行ってきたそうだ。その調査研究の中に、調査のための現地渡航費や人件費、出版物作製費やその他経費も計上してドナーを探したそうである。確かに、出版物を作成すればその後の重要なアドボカシー・ツールとなる。このような方法が一般的かどうかはわからないが、ACEでもアドボカシー活動の始まりとして出版物を出す必要を感じたことから、偶然かつ無意識にまずその部分に対して資金調達活動を行ってきた経験があり、アドボカシー活動の細分化による資金調達は有効であると思った。
その後のアドボカシー活動、すなわちキャンペーン部分を支える資金調達(ファンドレイジング)については、アドボカシー活動の中にマス・アドボカシーのノウハウが必要になってくるのではないかと想像するが、効果的な資金調達の具体的方法については、まだ新しいアイディアを得られてはいない。