2021年1月12日
夢を奪う児童労働
「なれるものになるよ、来るもの拒まずだよ」。
将来の夢をきいたとき、その少年はこう答えた。
一九九八年にインドで出会ったサディス君は元児童労働者。週六日、製糸工場で働いていた。六日働いても五日分しか給料はもらえない。昼食は出るが、いつまで食べているんだと皿を投げられ、仕事で失敗すると、煙草の火を押し付けられた。
「親に相談しなかったの」と私がきくと、しなかったという。なぜか。同じように働く別の子どもの親が文句を言いに来たことがあったそうだ。次の日、その子は働きに来なかった。親も捜しに来たが、見つからない。たぶん彼は殺されたと思うという。だから、親に相談しなかったんだと。最後に将来の夢をきいたら、冒頭の言葉だった。
私がNGO「ACE」をつくるきっかけとなった九八年の「児童労働に反対するグローバルマーチ」は、文字通り、世界百三カ国、八万㌔を児童労働から救出された子どもたち、NGO、市民が六カ月かけて行進し、九九年の「最悪の形態の児童労働禁止・撤廃条約」の実現を後押しした。
児童労働は子どもの教育の機会、健康的に発達する権利、そして将来の夢や希望も奪う。児童労働者は世界に一億五千二百万人(二〇一七年ILO発表)。デリーのマーチでのサディス君との出会いが、私がこの問題に向き合い続ける一つの原動力になっている。
NPO「ACE」代表 岩附由香
(2021年1月12日の東京新聞・中日新聞夕刊コラム「紙つぶて」に掲載)